水急不流月

信じる道を突き進め

エギングの進化と今後

今回は私が数年前に何とな~く執筆したものを記事にします。

釣りに関する読みもの好きな方や、お時間のある方にご一読いただけると幸いです。

 

 

 私がエギングを始めてから早いもので、もう二十年も経つ。二十年前にはエギングという言葉すらなく、アオリイカ狙いの釣り人のことを指すエギンガーという言葉さえも無かった。あの頃の私たちのエギングは、ルアーロッドにナイロンラインを巻いたリールを装着し、夜間に餌木を遠投。底まで沈めシャクリ上げ、また底まで沈め、再度シャクリ上げる、というような釣り方が主流だった。餌木をジャークさせるようなテクニックなどは無く、昼間に見えているイカを釣るサイトフィッシングなんて想像もつかなかった。道具に関して言えば、PEラインや専用のロッド、リールといったものは全く未開発の状態であり、『釣った』というよりは『釣れた』という感覚の釣りだった。

 

 私が初めてアオリイカを釣ったのは当時中学生の頃で、エギングを始めて一ヶ月くらい経った時だったと記憶している。そのときの率直な感想は嬉しさよりも驚きの方が大きかった。魚とは違う独特な引き。それに驚愕した。子どもの頃から海の町で育ち、釣りをすることも多く、いろいろな魚を釣ったことはあったが、この時ほど引きに感動したことはなかった。私はこの瞬間に、エギングの魅力、アオリイカの引きの面白さにハマったのだと思う。アオリイカの引きは、魚類とは全く異なるもので、青物のように走ったり、根魚のように突っ込んでいったりするような引きではなく、敢えて言葉にして表現するなら、一直線に、力強く、何度もグイィッグイィッと引っぱる、とでもいえばいいのだろうか。アオリイカの引きを、言葉で表現するのは難しく、「魚の引きと、どう違うの?」なんて言われた時に、うまく言葉で表現出来る人はそう多くないだろう。その引きこそが、釣ったものにしか知ることの出来ない魅力の一つでもあると私は考えている。

 

 私もエギングを始める前は、「なかなか釣れないし、夜は寒いし、そんなに楽しいのか?」という気持ちだった。しかし、アオリイカの引きを知ってからは、「こんなに面白い引きを味わえる釣りは他にない」と思うようになり、今となってはエギングの魅力に引き込まれたエギンガーの一人でもある。現在のエギングシステムの主流は、専用のエギングロッド、3000番程度の浅溝スプールのスピニングリールにPEラインを巻き、ショックリーダーを編み込んで、餌木を装着するというものになっている。私がエギングを始めた頃に比べれば随分と進化したものである。開発された専用のロッドやリール等のエギングシステムの確立、私はこれを必然であったと考えている。何よりも、エギングでのPEラインの使用がこのエギングシステム開発の立役者になったことは間違いないと考えていいだろう。

 

 私が初めてPEラインを使用したのは、エギングを始めて二年くらい経った時だった。釣具屋で変わったラインを見つけて使用してみたそのラインこそが、今のエギングシステムに無くてはならないPEラインだった。興味本意で購入し、何の知識もなく使用した為、最初に遠投したときには、パチンという音とともに、餌木が遙か彼方まで飛んでいってしまった。リーダーを付けることを知らず、PEラインに餌木を直結して投げた当然の結果である。次に、私は少し力を弱めて投げた。当時の私の知識では遠投することのできなかったPEラインだが、感度の良さには大変驚かされた。ボトムまで沈んだ瞬間にロッドを通じて、トン、という感覚がしっかりと伝わってきた。そしてロッドをゆっくりと引いてみる。ゴリゴリ、というような感覚がロッドを通して素直に伝わってくる。今までのナイロンラインでも、障害物に当たる感覚は多少なりともわかってはいたが、ハッキリと岩に当たっている感覚が伝わってくること、海中の様子や障害物の状態が手に取るようにわかることに唖然とした。さらに、PEラインでのアオリイカの引きを感じて仰天した。その引きは非常に強くハッキリとしたもので、自分をエギングの魅力に引き込んだアオリイカの引きをさらに明確にしたのである。

 

 そんな感度の良い、強度のあるPEラインだが、欠点も持ち合わせている。摩擦に弱く、伸縮性がほぼ無いということである。これはエギングをするうえで、避けては通れない根ズレに対して非常に弱いということである。そこで必要となるのが、ショックリーダーである。PEラインと餌木の間に、フロロカーボン、もしくはナイロンのラインを入れることにより、伸縮性をもたせることが出来る。ショックリーダーを編み込むことによって、キャスト時の結束部分の負荷に耐える、そして根ズレに強い感度と強度を持ち合わせたラインシステムを組むことができるようになるのである。

 PEラインの欠点は他にもあり、同じ号数のナイロンラインやフロロカーボンのラインと比較すると径が細いということである。細い分、遠投性に優れるのは長所であるが、リールの巻き量が多くなってしまうのが短所であった。そこで開発されたのが浅溝スプールのリールである。これを使用することにより、スプールの下巻きや、ラインの巻き量を抑えることが可能になる。また、柔軟な性質のPEラインは一度絡まってしまうと解くことは不可能に近いといっても過言ではない。そこで開発されたのがエギングロッドである。これまでのロッドと、PEライン用のエギングロッドのガイド部分を比較してみれば、その差は一目瞭然で、PEライン用のガイドは径が細く、また、ガイドの数も多いように思える。この開発により、PEラインのガイドの絡みを減少し、キャスティング時のスムーズなラインの送り出しを可能にしたのである。

 

 これらの経緯をみれば、前述したエギングシステムの確立、ロッドやリールの開発が必然であり、PEラインがそうさせたという私の考えにも納得していただけるのではないだろうか。

 

 しかしながら、エギングが確立されるとともにエギンガーは増え、マナーの悪さや常識のない者の行動が浮き彫りになったのも現実である。若者たちが夜中にエギングに訪れ、民家が近くにあるにもかかわらずワイワイと騒ぎながら釣りをする。また、平気で海にゴミを捨てる。近くにトイレが無いからと、民家の脇や漁師の漁船や漁具の影に隠れて用を足す者もいる。もしもそんな行動をするあなた方が、逆の立場になった時、どう感じるだろうか。自分たちだけが良ければそれでいいだとか、誰かが掃除するだろうといった考えを持ってそのような行動をしているなら、少し考え直してもらいたい。現在では、マナーの悪さ等から釣りを禁止する港や、外灯の消灯をする場所が増えてきているのが現状である。そうなれば釣りをする場所も少なくなり、釣りをするポイントも減ってくる。

 そんな現状もあり、釣り禁止の解除を訴えるチームや、釣り人の善意による釣り場の清掃活動等が実際に行われたりもしているのも事実である。一人ひとりの意識が変わり、マナーをしっかりと守れる釣り人ばかりになれば、港も快く釣り場を開放してくれるだろう。私たち釣り人の考え方が少し変わるだけで、これからの釣り場との関係は大きく変わっていくと私は考える。そしてその行く末に、釣り人と地域住民双方の笑顔があることを願っている。

 

 さて、エギングの進化から少し話が逸れたが、私がなぜこのように進化の過程まで考えるのかといえば、おそらく私の性分なのだろう。普通の釣り人であれば、この釣りにはこんな道具で餌がこれ、といった概念を持ち、突き詰めた結論は必要としないだろう。しかし私は、何をするにしても根本から知ることを要求し、自分なりの結論を必要とする。そうすることで得られるものは非常に多く、固定観念にしばられることの無い新しい考えや、ひらめきを生むこともあるからである。

 

 ある時、水深のある浮桟橋でエギングしていた時のこと。最初はいつも通り遠投してはシャクる、という横の釣りをしていたがアタリもなく、ただ同じことを繰り返しているだけだった。しかし、餌木が桟橋の真下にきた時に、ボトムからシャクリ上げてきたところ、アオリイカの魚影を確認することができたのである。その後に真下に落としてはしゃくり上げてくることを繰り返していたら何度もアタリがあったのだ。通常であればアオリイカが寄ってきたのだろうとか、偶然そこにいたと考える人も少なくないだろう。しかし、エギングも進化してきたとはいえ、まだまだアオリイカについては未解明な部分も多く、何事にも絶対は存在しないと考える私は、エギングの落とし込み釣りも可能なのではないかと考える。事実、初秋のアオリイカは岸際の藻の茂みや岸壁沿いに身を寄せているし、ボトムでステイさせ続けた餌木にアオリイカが乗ってきたという経験も多々ある。このことをふまえれば、水深のある岸壁や、桟橋の下などに身を隠せるストラクチャーがあれば、そこにアオリイカがいて、落とし込みで釣ることも可能ではないかと思うのである。こういった考えが新しい釣法を生み出し、今後のエギングを進化させていくものではないかと思う。固定観念にとらわれないことこそが、新しい発見への糸口であり進化の課程に無くてはならないものだと信じている。

 

 未解明な部分の多いアオリイカだが、その一つに色を識別できるのか、というものがある。釣具屋に行ってみれば多種多様なカラーの餌木が並んでいる。しかし、アオリイカが色を識別出来ないのであれば、ここまでの種類は必要無いだろう。模様や形を変えるだけですむはずである。また、釣り場で見えているイカに、一つの餌木を投げ続けても反応しなくなるどころか逃げてしまう。しかし、反応が無くなった時に同じ大きさ同じ模様で、違うカラーの餌木を投げる。するとどうだろうか。明らかにさっきまでの反応とは違い体色を変化させ興味を示す。こういったことから、私はアオリイカが色を識別しているのだと信じている。

 また、未解明な部分にどれほどの寿命なのかというものがある。産卵後に死滅してしまうといった説もあるようだが、私は環境の良い場所であれば何度も産卵を繰り返し長くて3~4年、もしくはそれ以上生きるのでは無いだろうかと推測する。九州の南部では4㎏を超えるものや6㎏近くにまで成長したアオリイカを実際に釣り上げている記録もある。アオリイカの成長過程からみて、そこまで成長するには少なくとも3年はかかるのではないかと思う。そしてその間に一度も産卵することなく成長してきたとは、とても考えにくいのだ。

 

 これからのエギングが進化していく中で、アオリイカの生態についても解明されていくことは多いだろう。ただ、私たちを魅了しアオリイカを追い求めさせるエギングには、今後も言葉では語り尽くされることのない、釣ったものにしか味わうことの出来ない心を惹き付ける何かがあり続けることだろう。

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